弱くても 脆くても 逃げずに生きよ 見えない刀を 腰に据え
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LoveNotes #12

アメリカに会いに行き、部下である佐藤という女性と
その恋人を初めて紹介された、その夜のことだった。
彼のマンションへ帰るなり、彼はネクタイを外しながら言った。

「小夜。お前明日帰れ。」

背を向けたまま。

「…どうして?」

私はいやな予感がする。
彼が目を見ずに命令するときは、ろくな事がない。

「どうしても。」
「あさってまで居てもいいって言ってたじゃない。仕事の邪魔はしないわよ。」
「帰れっつってんの。」

言いざまに振り返ったけれど、きつい言葉とは裏腹に彼は無表情だった。
いつものことだ。
こうなっては言うことは聞く他、ない。

「わかった。」

私は頷いて、苦労して荷造りした3日分の荷物を
黙ってスーツケースに詰め直す他なかった。
いまさら涙も出ない。
何が気に入らなかったのか、彼は機嫌を損ねれば
平然と、こういう理不尽を働いた。
日本にいたころから、慣れた展開だ。

ただ、昔に比べて距離があるだけに落胆は大きい。



「荷造りなんか後にしろや。」

うしろで声がする。
あまりに勝手な言い分に呆れて、さすがに私は無視をした。

すると彼は静かに近づいてきて、背後に立った。


何が起こるのかはわかっていた。
彼は強引に私を振り向かせるなり、激しく口付ける。
若干の抵抗をしてみるも、かなうわけがない。
さっきまで、4人で笑って食事をしていたのに。
まるで別人のように、彼は機械のように冷たい。
口付けが深くなると私の体から力は抜けた。

そのまま冷たい床で、逃れられずに彼を受け入れた。







よく、外で見かける。
蜘蛛の巣にかかった瀕死の蝶を見ると思う。

まるで私だ、と。

複雑で巧妙であればあるほど、一度掛かれば逃げられない。
まるで、彼に組み敷かれる私のようだと。


彼は実に目の細かい、精巧な巣だった。
恐ろしい程に頭が良くて、機械のように合理的。
加えて作りもののように整った容貌。
外ではさぞもてはやされているんだろうと思うけど、
一皮むけば、支配欲だけの体温のない男なのだ。


けれど。



それを知っているのは自分だけだと
支配されながらも歪んだ優越感に浸っていた私が一番、
愚かでイカれているのだと思う。












「別れますか。」


村上てつやとその彼女を紹介されて、帰れと言われて帰されて、
その次に会えたのは半年後。
彼が珍しく日本へ帰ってきたのだ。
そのときに急に、別れ話を切り出された。

どんな理不尽な扱いにも、耐えてこられた。
でも、その命令にだけは従えない。

珍しく彼から日本へ帰ってきたから、おかしいと思ってた。


「…え。」
「別れましょーか。」

いかにも、な素っ気無い言葉使い。
私のマンションの部屋で、正面のソファに座って
無表情で灰皿に煙草の灰を落とす彼。

「どうして。」

つとめて冷静に尋ねた。
彼は感情的になるのが大嫌いなのだ。

「お前が好きだよ。」

ばかみたいな答えが返ってきた。
この人は、まるで子供なのだ。
頭がきれる、ちっとも可愛げのない、子供。


「質問の、答えは?」
「聞かない方がいいと思う。」
「知りたい。」

私は食い下がった。
別れましょうと言われているのだ。
少しくらい粘ったっていいじゃないか。
ふたりでつきあってきたのだから、
ふたりで別れるべきだ。


「言いたくない。」
「仕事のこと?」
「仕事は順調だよ。」
「順調だからこそ、じゃなくて?」

私が邪魔になったのかもしれない。
アメリカでの仕事が、あまりに楽しくて。
でも、日本にいたときから私のことは二の次だったのだし
いまさらそんな理由も納得できないけれど。

「失敗したなぁと思ってさ。」

またも質問とはちがう答え。
私はあきらめて続きを聞いた。

「なにを?」
「あいつに会ったの。」
「あいつって誰。」
「村上てつや。」


半年前、アメリカで会った男だ。
部下の恋人だということで紹介された。
私も彼も、初対面だった。


「…何が失敗だったの。」
「お前、あいつに惚れると思うんだ。」
「惚れないわ。」
「惚れるよ、絶対。」
「惚れないったら。」
「惚れる。」

いい加減にしてほしい。
別れようなどと言われて、これでも私の心はいま
焼け爛れそうなほど、痛んでいるのだ。
せいぜい愛想を尽かされないよう、冷静ぶっているだけなのに
何を突拍子もないことを言い出すのだろう。


「どうしてそう思うの…。」
「理由は二つ。まず、あいつ俺に似てるから。」

冗談じゃない。
あなたのような男が、これ以上いてたまるか。

「それから、もう一つ。」

彼は言いかけて、煙草をひと吸い。
煙を吐きながら、言った。



「俺も惚れそうだから。」



8年間つきあってきて、別れる理由にさしだされた
この言葉が、一番おどろいた。




「お前をあいつに取られるのもやだし、あいつをお前に取られるのもやだから。」
「ちょっと待ってよ。取るとか取られるとか・・・その前に彼にはきちんと恋人がいるじゃない。」

自分で言っていて、そこに突っ込んでいる場合じゃない、と思いつつ
冷静に丁寧に話を進めないと、この人と話しているとこちらが混乱するのだ。


「佐藤は関係ないよ。」

あっさりと言う。
頭が痛くなった。この人は異常だ。

関係ないと言ったら、ない。
ないのだろう。彼にとっては。


心が内側も外側もひりひりして、焦げるような痛み。
ためらいのないあなたがずっとうらやましかった。
誰もが、あなたみたいに生きられたら楽だろうと思ってた。

納得できない別れと。
突拍子もない理由と。
そのどれもが、現実味もなく私の前を通り過ぎてく。

別れ話はそれだけだった。
これ以上、話し合うことはない、と納得してないくせに思ってた。



実際、そうだったのだ。
私たちは、そうして終わった。
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[2013/04/25 23:40] | 小説
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こんにちは
さき
こんにちは、お久しぶりです。
っていっても誰だかわかりませんよね。以前サイトのbbsの方に何度か書き込みをさせていただいていた者です。

久しぶりにブログのほうを拝見したらLoveNoteが更新されていてふと懐かしくなってSoul Serenadeから読み返してきました。改めて読んでもいい作品だなと思います。
あの頃とはまた違った気持ちや想いを持つことができました。

LoveNoteのてっちゃんはやっぱりすこし頼りないです。小夜と菜緒の間で葛藤している証拠でしょうか?
今までは藤井という人物は菜緒を通してしかわかりませんでしたが、この12話で少しわかったような気がしました。
4人がこれからどうなっていくのか楽しみです。

長々と失礼いたしました。





藍子
青也さんの作品が大好きで、今でもときどき見にきています。
またいろんな作品読ませていただきたいです。
よろしくお願いします。

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この記事へのコメント:
こんにちは
こんにちは、お久しぶりです。
っていっても誰だかわかりませんよね。以前サイトのbbsの方に何度か書き込みをさせていただいていた者です。

久しぶりにブログのほうを拝見したらLoveNoteが更新されていてふと懐かしくなってSoul Serenadeから読み返してきました。改めて読んでもいい作品だなと思います。
あの頃とはまた違った気持ちや想いを持つことができました。

LoveNoteのてっちゃんはやっぱりすこし頼りないです。小夜と菜緒の間で葛藤している証拠でしょうか?
今までは藤井という人物は菜緒を通してしかわかりませんでしたが、この12話で少しわかったような気がしました。
4人がこれからどうなっていくのか楽しみです。

長々と失礼いたしました。


2013/05/21(Tue) 02:38 | URL  | さき #p.pUFPVQ[ 編集]
青也さんの作品が大好きで、今でもときどき見にきています。
またいろんな作品読ませていただきたいです。
よろしくお願いします。
2013/05/25(Sat) 23:23 | URL  | 藍子 #-[ 編集]
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